審査経過
2月15日〜17日の3日間、KFS本校の会議室で、千葉幹夫選考委員、酒泉亮KFSエグゼクティヴ・スーパーバイザーが審査にあたりました。 応募作を全点机の上に並べ、両選考委員が1作1作あらすじを読み、4画面の絵と見比べながら慎重に審査していきます。選考は、準入選以上作約300点、入選以上作約150点、上位入選以上作約65点、入賞候補作約41点と段階を追って選考していきます。両選考委員は各段階で渡される付箋の半数を持ち、どちらか委員の一方が投票した作品が次の段階に進むことになります。まるまる3日をかけた17日、ついに奨励賞以上の入賞候補作41点が選出され、さらに最終選考に進む30点に絞り込まれました。

一次選考で絞り込まれた30点の作品のカラーコピー、あらすじのコピーがあらかじめ選考委員に渡されます。今回の選考委員は、松本猛ちひろ美術館常任顧問、絵本作家・武田美穂先生、阿部薫講談社児童局局長、宮本久講談社第六編集局局長、阿部敬悦KFS代表スクールディレクター、一次審査にあたった千葉幹夫選考委員の計6名。3月16日、KFS本校会議室が最終選考会場となります。
選考は、最初にグランプリ、優秀賞を決めていきます。候補作30点に対して、各選考委員は5枚ずつ付箋を持ち、めぼしい作品に投票していきます。1回目の投票で複数票を集めた作品の中からグランプリを議論のうえ決めていきます。仁木三紀さんの作品が5票、小林美紀さんの作品が4票、以下、伊藤香奈さん、村吉佳美さん、長澤眞須美さん、永利紀美子さん作品が複数票を獲得しました。 この6作品からさらに議論を進めグランプリを決定します。 「絵本の意識が高い」「構図やアングルが工夫されている」という声の上がった仁木作品、「ストーリーが非常におもしろい」「個性の強さを感じる」等、評価された小林作品の2作品が、議論の末、グランプリ候補に絞り込まれ、決選投票の結果、小林さんがグランプリの栄冠を勝ちとりました。


選考委員の声〜最終選考から〜
松本 猛 (ちひろ美術館常任顧問)

ほかの作品と比べても絵本の意識が強い仁木三紀さんの作品は、たとえば最初の引き出しの中からのアングルなどは工夫されていて感心しました。ただ、ヘビの造形など、ちょっと違和感を覚えました。
武田美穂(絵本作家)

小林美紀さんの「月の下でブッペリア」は、作者のこういうものをつくりたいという志向性が感じられたので、本になるのではないかと思いました。
千葉幹夫(児童文学評論家・作家)

村吉佳美さんの「しっぽっぽなまつり」は、発想はそれほどユニークではないですが、絵はおもしろかったです。非常に動きのある絵が描けそうな気がする。うまくいけばかなり楽しい絵本になるかなと。
阿部 薫(講談社児童局局長)

仁木三紀さん「ゴム紐ノビさんと毛糸のモフさん」は、4枚の絵の構図を見て、おのおの1枚ずつそれなりに説得力・アピール力があったなという気はしました。ゴムひもと毛糸というところに目をつけたところに、作者のおもしろさというか、ユーモアのセンスの良さを感じました。
宮本 久(講談社第六編集局局長)

永利紀美子さんの「ほしとうさぎとまもるくん」は、大胆に視点を変化させた構図の工夫に感心しました。大きなウサギというキャラクターもかわいい。何よりも作品全体に漂うやさしい雰囲気がいいですね。
阿部敬悦(KFS代表スクールディレクター)

伊藤香奈さんの「ふくろうおとうさん」は、自分なりの世界観ができていました。ただ、もう少しエンターテインメント性がほしいなという気がします。自分の世界の中だけで話をつくるだけでなく、そこから抜け出す工夫をするともっといい作品になるのではないでしょうか
4月19日 授賞式での松本猛先生総評より抜粋
今、日本は震災でたいへんな状況で、いろいろな思いを抱えている人がいます。私は一昨日、芝居をやっている人と話をしました。東京では公演がキャンセルになったんですが、岩手では芝居をやる決断をした。役者たちは何が何でも岩手に駆けつけていって、実際に芝居をやったら、たいへんな生活をしている人たちなんだけど、本当に喜んでくれたというんです。私は、文化とか芸術、音楽、美術といったものがなくては、人間は生きていけないんだ、と改めて感じました。絵本にしても、日本のいろんなところで絵本を集めて被災地に送って、読みきかせをしようという動きが起こっています。それは絵本が、子どもたちだけじゃなくて、お父さんやお母さんや、おじいちゃん、おばあちゃんを力づける力を持っているからだと思います。
この創作絵本グランプリには素晴らしい作品がたくさんありました。とくに絵ではうまいなと思うものがたくさんありました。ただその中で、もう一歩胸に迫ってくる力のあるものがまだ足りない、と感じました。なぜか? それは、応募作のほとんどがファンタジーなんですが、頭の中に浮かんだこと、空想の中の世界、楽しげな世界をつくるのがファンタジーだと思って、頭の中でこねくり回して、この動物はどうしようかとか一生懸命考えてしまっています。でも、本当に素敵なファンタジーというのは、実際の我々の生活に根ざしていて、そこから出発するものなんじゃないかと私は思うんです。ですから、ファンタジー世界を描くときに、リアリティがあった上でジャンプできるか。それをぜひ考えていってほしいと思います。
皆さんがこれから優れた絵本をつくっていくのに、自分の創作も大切なんですが、例えば非常に優れた短編のファンタジー小説などの、ある場面を絵本化するにはどうすればいいか、をぜひ考えてほしい。この場面を視覚化するときに、どういう風に、どの視点で、どんな構図で、ロングかアップなのか、あらゆることを考えないといけない。その訓練によって実は構成力は生まれてきます。いままでKFSでは上手に描くこと、おもしろい視点でキャッチ力のある1枚の絵を描くことを勉強されてきたと思います。それももちろんとても大切です。それがないと話にならないですけれども、もう一方で構成を考えてほしい。ファンタジーをつくるのでしたら、ファンタジーの基本になる現実をちゃんと見て、そこからどんな風にジャンプできるか。それが我々をワクワクさせるわけです。そういう世界に広がっていってほしいなと思います。  ここで表彰される皆さんは、誰かが自分の作品に興味を持ってくれたんだと自信を持ってください。ここがおもしろいぞ、というのがなかったら評価はしないわけです。だけど同時に謙虚に、これからもいい仕事をしていってほしいと思います。本日はおめでとうございました。